スポーツについて考えよう!

日々、発信されるスポーツの情報について考えよう

コートジボワール戦での久保建英の評価はなぜ低い

期待される久保建英が日本代表初先発

 10月13日にオランダで行われたサッカー日本代表対コートジボワール戦で、日本の至宝とまで言われる久保建英選手が、待望のA代表での初先発を果たしました。

 新型コロナウイルス感染拡大のため、今年の国際試合は次々と中止または延期されていて、日本代表もスコアレスドローに終わった10日のカメルーン戦に続いて、このコートジボワール戦が今年2試合目の試合でした。おそらく、コロナ禍がなければ、久保選手にももっと早く先発の機会が与えられた可能性があったでしょう。

 試合はヨーロッパリーグの強豪チームの選手を揃えるコートジボワールを相手に、終盤まで0ー0が続き、アディショナルタイム植田直通選手のゴールで1−0で勝利しています。事実上の格上と言っても過言ではないコートジボワール相手に、強固な守備から1点をもぎ取って結果を出したことは十分に評価できる試合だったのではないでしょうか。

低調な久保への評価

 気になるのは、久保選手の試合後の評価です。彼は61分までプレーし南野拓実選手と交代しました。この間、開始3分に鈴木武蔵選手のクロスをダイレクトでゴールを狙って枠外に外したほか、左サイドからの突破で決定的とも言えるラストパスを送って、チャンスを演出しました。FC東京時代に評価が高くなかった守備面でも献身的な動きで、相手の攻撃のチャンスの芽を摘み取っていました。日本代表の中で際立っていたとは言えませんが、初先発のプレーとして及第点のプレーだったと言えると思います。

 しかし、彼のこの試合のプレーに対する評価はもっぱら低いものが多いようです。そして、「久保が低調だった理由」などの記事がいくつもあがっています。

“今ひとつ“だった久保建英の出来。森保監督はなぜ得意の右サイドで起用しなかったのか | THE DIGEST

久保建英が低調だった理由。森保監督とエメリからの評価は似ているはずだ|サッカー代表|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva

なぜコートジボワール戦で先発抜擢を受けた久保建英は機能しなかったのか?(THE PAGE) - Yahoo!ニュース

 その理由として書かれているものを整理してみると主なものは次の通りです。

  • 久保が攻撃の中心になっていない
  • 右サイドで起用すべき
  • 守備の負担から解放すべき
  • チームで試合に出ていないために体力が十分でない
  • 監督から実力に相応しい評価を得ていない

久保への低い評価は彼への過大評価が原因

 筆者は、久保選手への過大評価が、彼の試合後の評価を相対的に低くしている最大の理由だと考えています。

 現在19歳の久保選手は、10歳からスペインでプレーしていたことで、これまでの日本人選手とは違った存在であることは間違いありません。UEFAの厳しいルールがなければ、彼はもっと高いレベルでプレーしていたかもしれません。そうしたキャリアからの期待値も含めて彼への評価が過分に高くなっているようですが、現実の彼は決してスーパースターではありません。渡欧1年目の昨年の出場35試合4ゴールという成績は2部リーグでのものに過ぎませんし、1部のビジャレアルに移籍した現在も短時間だけ途中出場を許される選手なのです。レベルの高いスペインリーグとは言え、それが現実です。

 所属チームのエミリ監督が久保選手を不当な扱いをしている、というような記事が見受けられます。しかし、短いとは言え与えられている時間の中で、監督や周囲の選手を納得させられるような決定的な仕事ができていないことは紛れもない事実なのです。それは日本代表でも同じです。

 ポジションについても、チームでも日本代表でも、まだ実績のない久保選手よりも実績がある選手が優先されるのは当然のことで、それが結果的に彼が決して得意とは言えない左サイドでの起用に繋がっています。

 今回のように、日本代表がヨーロッパリーグに在籍する選手だけでリザーブを含めてチームを構成できる時代に、彼の存在は数多くいる選手たちの一人に過ぎません。今回のメンバーだけで見ても、ヨーロッパリーグの1部のチームでレギュラーとして監督や他の選手の信頼を勝ち得ている選手が何人もいるのです。久保選手への期待値がどんなに高かったとしても、実績や現在評価されている選手を中心にチームを作り、戦術の中心に置くことは当然のことでしょう。

久保はロナウジーニョでもなければメッシでもない

 かつてのブラジルのエース、ロナウジーニョを例に、久保選手が守備をしていたらロナウジーニョにはなれないという記事もあります。それを言うなら、そもそも久保選手はロナウジーニョではありません。守備を求められない選手として誰でも思いつくのは、ロナウジーニョと同じバルセロナでプレーするメッシですが、今の久保選手が攻撃に専念したとしてもメッシのようなインパクトのあるプレーを連発できるとは思えません。

 ロナウジーニョやメッシは、守備をしないマイナス分を補って余りあるほど攻撃への貢献ができるからこそ、守備を免除されたのです。久保選手の攻撃力は、少なくとも現在のチームでも、FC東京でも、そこまで結果を見せたことはないでしょう。そして、日本代表でも同様です。

 コートジボワール戦を見て筆者が感じたことは、周囲の選手からの久保選手への信頼の不足です。TV画面からの限られた情報の範囲ですが、ビルドアップで彼を探している様子もありませんし、チャンスで彼にボールを預けようとするシーンも限定的だったと思います。その原因の1つとして考えられるのが、久保選手の自分の意図と合わない動きをする周囲の選手に対して見せる、不平とも見えるジェスチャーです。そして、もう1つは信頼に足るべき結果に繋がるプレーが出来ていないことです。

 久保選手を中心にチームが作られ、彼が思うように周りの選手が動くようになるには、彼が監督や周囲の選手の誰もを納得させ、敬意を持たられるようなプレーをしなければなりません。それも一瞬だけでなく、続けてそうしたプレーができなければなりません。ハイライト動画などで見ることができる彼の一瞬の輝きは、日本やスペインのファンやメディアを喜ばせることができても、チームメイトや監督からの信頼には繋がりません。

ビジャレアルで結果を出すことが日本代表での信頼に繋がる

 まだ若く、実績も少ない久保選手が、これまで言われ続けてきたように日本人として類まれな才能を持っているかどうか。それを彼自身が証明するのはこれからです。誰もが納得させられる結果を出して初めて次のステージが待っています。

 まずは、所属チームでレギュラー選手になること。それが彼の評価を高める最短ルートなのではないでしょうか。それが日本代表にも繋がるでしょう。

 それまでは若い彼に過大な期待は禁物です。プロアスリートは可能性で評価されるものではなく、結果で評価されるべきものなのです。