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北京オリンピック雑感4(2/9)〜競技における公平が保たれていない〜

不可解な失格が頻発したジャンプ複合団体

 競技団体の最も重要な仕事は何か? それはその競技団体の下で行われる競技に参加する全ての競技者が、同一ルールのもと、公平に競技に参加し、公平にジャッジされる環境を作り守ることです。

 しかし、時として、そうではなく、むしろ競技団体やそのスタッフがその原則に反する行為をすることが起こります。

 北京オリンピック3日目、2月7日はそういうことが明らかになる日になりました。

 この日行われたジャンプ競技複合団体は、日本のゴールデンタイムに中継されたので、日本でも多くの人がテレビの前で応援したことでしょう。

 前日の男子ノーマルヒルで優勝したばかりの小林陵侑選手や、メダルは逃したものの4位で競技を終えた人気選手の高梨沙羅選手らが出場するこの大会の新種目で、日本チームはメダルの期待がかかっていました。

 高梨沙羅選手が1回目に100m越えの大ジャンプを決めたあと、ふたり目の選手が飛んでいる途中に、悪いニュースが入りました。高梨選手が規定違反により失格になったというのです。これによって、高梨選手のジャンプの得点は無くなりました。日本チームはそこから巻き返しを図りましたが、優勝したスロベニア、2位のROC、3位のドイツに続く4位に終わりました。

 高梨選手の失格はウェアに関する規定違反でした。浮力が増えるのを防ぐため、規定では体から2cm以内である必要がありますがその規定に違反していたそうです。

 しかし、同様の規定違反は高梨選手だけではありませんでした。彼女と合わせて、4カ国5人の選手が同様に失格となったのです。中でもノルウェーからは二人の失格者が出ているのです。 

 日本チームの関係者は、極寒の中での競技で筋肉が硬直したりポンプアップしない分を計算に入れていなかったと、ミスを認めるような発言をしていますが、他国は違います。選手たちは、この通常と違った方法で検査されたと言い、検査方法に問題があったとしています。

 他の国のチームが特に問題視しているのは、失格になったのは全て女性選手だということです。当然、女性の体を触る検査ですから、検査するのは女性です。その女性に問題があったのではないかということです。

 そもそも、一人、二人ならまだしも、5人もの失格者が出ることが考えられるでしょうか。いずれも、シーズンを通してワールドカップを転戦している選手で、スタッフもその選手たちの同行しているスタッフです。日本チームがあげたような理由も、この日が初戦ならわかりますが、すでに男女ともにノーマルヒルが行われたあとなのです。

 確かに極寒ではありますが、ワールドカップの開催地には同様の気温の会場もあるでしょう。何より、その理由では、日常的に極寒の環境で競技をしている北欧の選手が失格になっていることが、理解できません。

 今の所、国際スキー連盟は公式な発表を行なっていませんが、説明責任があるのは間違いありません。本当に公平な検査、ジャッジメントが行われたことを証明する責任は競技団体にあるのです。それが世界一を競うオリンピックであればなおのことです。

中国に勝てば失格となるショートトラック

 実は、日本ではあまり注目をしていないスピードスケートショートトラックでは、もっと大きな騒動が起こっていました。

 7日に行われた男子1000mでは、準決勝で世界記録を持つ韓国のファン・デホン選手が1位でゴールしていながら失格となり、繰り上がりで2位、3位の中国選手が決勝に進出しています。映像で見ても、少なくとも素人目にはどこに失格の要素があったのか全くわかりません。

 さらにその決勝でも、トップでゴールしたハンガリーシャオリンサンドル・リュウ選手が失格となり、中国が金、銀を独占しています。

 これには伏線があります。5日に行われた混合2000mリレーでも、準決勝でライバルだったROCアメリカチームが失格になり、中国が繰り上げで決勝に進出して、金メダルを獲得しています。アメリカのメディアは、このレースでは、ROCが中国の進路妨害をしたことは明らかだが、アメリカがルール違反をした事実はなく、逆に中国側の違反があったことを具体的に示しています。

 規定違反により失格が出ることが珍しく無い競技ではありますが、その結果、中国選手ばかりが有利な結果になり、また中国選手だけが失格の対象にならないのは明らかに不自然です。

 さらに、ショートトラックは選手の転倒が珍しく無い競技ですが、中国選手ばかりが救済処置でレースに復帰しているそうです。

 世界の強豪国の力が拮抗し、その優勝候補の中に開催国の中国がいるショートトラックでは、大会前から中国有利の運営が行われると噂されていたというのですから驚きです。

 韓国選手団は8日に会見を行い、IOC国際スケート連盟に意見書を送ったことを明らかにしています。また、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴することも発表しています。

 ショートトラックの場合も、国際スケート連盟は事実関係を綿密に調査して、全ての参加選手、関係者に対して、具体的な説明責任があるはずです。そうした透明性が、競技の公平性を作っていくのです。

 国際スケート連盟はすでに韓国の意義を認めないことを発表しているようです。

公平性が担保されない競技はこれだけでない

 さらに8日にも、スノーボード女子パラレル大回転で疑惑の判定がありました。日本の竹内智香選手が進路妨害の判定によって失格で敗退しましたが、進路妨害の要素は明らかになく、相手のドイツ選手も進路妨害を受けていないと主張したにも関わらず、判定は覆りませんでした。

 スノーボードハーフパイプでは、審判の構成において公平性を保つように、複数の国の審判により判定がされていますが、パラレル大回転やスノーボードクロスのスピードを争う種目やスロープスタイルのようなスピードとパフォーマンスをあわせて競う種目では、審判員がどのような構成で、どのような基準でジャッジが行われているか、公にはされていません。この種目でもジャッジ8人のうち6人がドイツ人といういびつな状態で競技が行われているそうです。これでは、公正な競技ができるはずがありません。

 フィギュアスケートの採点が現在のような緻密な採点基準になったのは、かつてロシアの審判によって自国選手への有利な判定が繰り返して行われたからです。現在は審判の人選も競技直前に抽選によって決められて、できる限り不正が介在する余地を無くそうとしています。

 ジャンプ競技も一部の審判による偏った判定が問題になった競技です。現在は、様々なファクターが客観的にポイント化されていますが、人間の目によって判断される飛型点でも、5人の審判の判定の内、一番高い点数と一番低い点数をカットして、真ん中3人の判定だけが採用されるようにして、できる限り偏りを減らそうとしています。

 さらに、審判の出身国をテレビなどで表示して偏った判定を心理的にしづらくしています。それでも、今回の男子ノーマルヒルでも、自国や繋がりの深い国の選手に際立って高い点数をつける審判がいましたが、このシステムによって、この審判が偏った判定した場合はほとんどカットされていました。

 

 世界最高の大会とされるオリンピックでさえ、すべての参加選手が公平に公正に競技に参加できる環境が整っていないようです。むしろ、自らそうした立場を放棄し、自らの強い立場を利用して積極的に一部のアスリートが有利になるように働きかけている競技団体もあるようです。