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四度、F1に復帰するホンダ〜自動車メーカーの懐古主義

ホンダが2026年からのF1復帰を発表

5月25日、ホンダは2026年からイギリスのスポーツカーメーカー・アストンマーチンパワーユニット(エンジン)を提供する形で、F1に復帰することを発表しました。

アストンマーチン社は、1960年代から大ヒットした映画シリーズ「007」シリーズの主人公ジェームズ・ボンドが乗るボンドカーでも世界的に知られた老舗レーシングカーメーカーです。1912年に創業した同社は、かつて様々な世界的なカーレースを制しましたが、F1では2021年に61年ぶりに復活しました。

一方のホンダは、2015年から続いていた4回目のF1での活動を、開発資本と人的資源をカーボンニュートラルに向けた研究開発を集中することを理由に、2021年に終了していました。

しかし、2022年も事実上それまでと同様にパワーユニットレッドブルチームに供給し、そのレッドブルチームはコンストラーズとドライバーズの2冠を獲得しました。

そしてこのレッドブルとの関係は2025年まで続くことになっています。但し、2022年以降の関係では、チャンピオンチームの一員として正式にホンダの名前が上がることはなく、車体の後輪近くのカウルに「HONDA」の文字があるだけです。

2019年に同社がF1活動の停止を発表した際には、それまでの活動停止の際に使っていた「休止」ではなく「撤退」という言葉を使ったことで、F1での活動を終了する強い意志が伝えられたと思われましたが、その言葉とは裏腹に後ろ髪が引かれるかのようにF1での活動を続けていたことになります。

今回のホンダの発表は、F1の関係者、ファンにとっては、それほどの驚きがあったわけではありません。

2月にF1が発表した、2026年からの新レギュレーションをもとにエンジンメーカーとしてエントリーを認めた6社(6チーム)の中に、ホンダの名前があったからです。それより以前にも、エントリーを行ったことをホンダは認めていました。

さらに、その6チームの中に、ホンダが現在エンジンを供給しているレッドブルとフォードのコラボチームがあったため、2026年以降ホンダとレッドブルが袂を分つこともはっきりしていました。あとはホンダがエンジンを供給するには、どのチームになるかだけだったのです。

F1復帰の理由はカーボンニュートラル

今回のホンダの発表の中で語られたF1復帰の理由は、F1のレギュレーションの変更でした。

F1は、2030年にカーボンニュートラルを実現することを目標としていて、新レギュレーションにそれ沿ったものです。

2026年からの新しいレギュレーションでは、最高出力の50%をエンジン、50%を電動モーターで駆動して、これまでのガソリンエンジン中心の駆動から大幅は変更が求められています。さらに2026年以降は100%カーボンニュートラルの燃料の使用が義務付けられていています。

ホンダにとってのその意味をニュースリリースでは次のように書かれています。

「このレギュレーション変更は、Hondaのカーボンニュートラルの方向性に合致し、その実現に向けた将来技術の開発に大きな意義を持つことから、新たに参戦を決定しました。」

FIAフォーミュラ・ワン世界選手権への参戦について/本田技研工業 5月24日

カーボンニュートラルの実現は、世界中の自動車メーカーにとって必須課題です。特にEV化で世界的に遅れをとっている日本のメーカーにとっては死活問題と言えます。2021年にホンダのF1離脱の判断は、こうした背景があってのことです。

一方で、世界的に環境保全が叫ばれる中で開催されている、バイクやカートも含めたモーターレースにとっても、カーボンニュートラルをはじめとする環境対策は喫緊の課題で、その対策と実績を世の中にPRする必要があります。

温暖化が進みカーボンニュートラル=脱炭素が叫ばれている中で、その対策はモーターレースの存在を意義を問うていると言っても過言ではありません。

中でも、世界最高峰のモーターレースに位置するF1は、環境保護団体からの攻撃の矢面に立ってきたと言っても過言ではありません。

特に環境意識が高いヨーロッパに文化的な背景を持つF1にとっては、本来もっと先進的な立場をとるべきだったと考えられますが、これまでは小手先だけの対応にとどまっていて、2026年からの改正でようやく重い腰をあげたという印象です。

それでもなお、F1は2026年の段階ではモーターではなく既存の内燃エンジンへのこだわりを捨てることはできませんでした。このエンジンへのこだわりがホンダにとっては幸運だったのかもしれません。EVに遅れをとっている日本の自動車メーカーにとって、エンジンと電気エネルギーの共存、すなわちハイブリットは得意中の得意とするからです。

さらに記者発表時の三部敏宏社長の口からは、レギュレーションで決められたカーボンニュートラルの合成燃料の開発は、ホンダの新しい主力商品でもあるホンダジェットなどに使用する航空燃料の開発にも繋がると語っています。

ホンダ復帰の本当の理由

このホンダの復帰について書かれた記事の多くには次の2点がその理由として上げられています。

  1. これまで低調だったアメリカでのF1の人気がここ数年高まり、ホンダの最大のマーケットであるアメリカでのマーケティング効果が期待できること
  2. 2021年から全チーム共通で開発に対するコストキャップ(開発費の制限)が導入され、2026年からの年間の開発費は135万ドル以下と決められたこと

日本では世界的な人気があると思われているF1ですが、自動車大国のアメリカでの人気はいまひとつでした。

アメリカには、毎年40万人を集めるインディ500インディアナポリス500)という絶対的な人気を誇るレースを中心とした、インディカーレースが開催されていて、シリーズを通した人気は絶大です。

1911年に始まったインディ500は、1950年代にF1に組み込まれた時期もありましたが、ヨーロッパ発祥のF1とは文化的に異なり長続きはしませんでした。その後、アメリカがF1不毛の地と言われる時期が長く続いたのです。

現在のアメリカ国内のF1人気は、2017年にアメリカ国内のF1事業を買収したリバティメディアが全レースをネット配信し、さらに2019年からネットフリックスでドキュメンター番組を配信されたことによると言われています。

今季のF1の23戦のうち、アメリカ国内で3戦が組まれていて、5月に行われたマイアミグランプリでは27万枚のチケットが完売したと伝えられています。10年ほど前にはアメリカ国内でF1が開催されない時期があったことを考えると覚醒の感があり、現在のアメリカでのF1人気を窺い知ることができます。

ホンダは、そのアメリカで、4輪の全販売台数の4割前後を販売していて、このアメリカ市場でのF1人気を、マーケティング的に見逃す手はないと考えるのは、当然の判断と言えるでしょう。

ホンダという日本の企業にとっては、カーボンニュートラルという環境課題よりも、むしろこのマーケティング的な視点とその効果への期待の方が、F1復帰の相応しい理由だったはずです。

さらに、このマーケティング的な理由を後押ししたのが、すでに始まっているF1のコストキャップ制です。いくらマーケティング的に好条件で売上増が見込まれたとしても、開発に無尽蔵に資金が必要だとすれば意味がありません。F1が定めた2026年からのすべての開発費の上限は年間1億3500万ドルです。

ホンダの第2期1980年代から90年代には、エンジンだけで1億ドル以上の開発費をかけていたそうなので、大幅な予算減額になりそうです。

F1復帰はホンダにとってメリットはあるのか

しかし、この復帰に疑問を投げかける声も少なくありません。

まず第1に、カーボンニュートラルに向けて2026年から実施される新レギュレーションは、技術的に決して新しいことではなく、市販車と比較してもむしろ時代遅れと言ってもいいかもしれません。

しかも、F1が掲げる2030年のカーボンニュートラルの達成への前段階としては、あまりにリアリティが低い内容です。

もちろん、時速250キロを超える高速での技術や耐久性、そして軽量化などF1というフィールドでの開発は進むかもしれませんが、それがすでにハイブリット車として熟成が進んでいる市販車などへフィードバックできる要素は極めて限定されるはずです。

しかも、アメリカ、中国、ヨーロッパでは、カーボンニュートラルを形にしたEV車が続々と登場している中で、今更ハイブリット車の高度な技術開発の優先順位が高いとも思えません。

記事に散見される高性能バッテリーの開発などは、実験室とテストコースで十分に可能ですし、そもそもスピードだけを見れば、ホンダがエンジンを供給している国内レースのスーパーフォミュラの方が、高速で走っていますから、そこでテストをすれば良いはずです。

つまり、ホンダが掲げるカーボンニュートラルという企業目標と、F1の活動はシンクロしていないのです。

また、やはり記事に書かれていた、アメリカ市場でのF1人気によるマーケティング効果も、それほど高いものではないかもしれません。

ホンダは長年インディカーにエンジンを供給していて、アメリカのモーターレースファンにとっては、レーシングカーの車体にホンダの「H」のエンブレムや「HONDA」のロゴが付いていることは、決して目新しいことでありません。

しかも、F1よりハイスピードで長時間、アグレッシブなレースを繰り広げるインディカーでの活躍で、ホンダエンジンの信頼性はアメリカ人に認知されているはずです。

しかも、長年ホンダがエンジンを供給しているこのインディカーレースでは、2012年にはとうもろこしを原料としたエタノール85%とガソリン15%の混合燃料の使用を開始し、今年からはさらに廃棄とうもろこしを原料とするエタノール80%とバイオ燃料20%の100%再生可能燃料で走行しています。

そうした意味では、環境対策の意味でもホンダの存在は、アメリカのモーターレースファンにメッセージを送れてきたはずです。

さらに、ホンダバイクの世界的な認知度や人気はアメリカでも変わりません。

ここ数年、F1の人気が高まったからと言って、いきなりそれまでモーターレースを見たことがない人が見るようになったわけはなく、その大半はインディカーレースやバイクレースを観戦してきた人たちでしょう。

さらに言えば、私たちにはホンダにはレースのイメージがあるかもしれませんが、すでにスポーツタイプの市販車はほとんど生産販売していません。

世界のすべて車種をチェックできたわけではありませんが、日本で販売されているシビック・タイプRが唯一のスポーツタイプの車種ではないでしょうか。

2016年に大々的に登場した純スポーツカー2代目NSXも、昨年末で製造販売を終了していました。販売開始からわずか7年目でした。

現在のホンダの4輪の主力商品は、日本国内では軽自動車、アメリカ国内ではRV車とピックアップトラックで、レースシーンとは結びつかないのです。

そうやって考えると、ホンダのエンブレムを付けたF1マシーンが疾走していたからと言って、アメリカ市場でマーケットが拡大し、売上増に繋がるようには思えません。

当然、そうしたことをホンダもそれを十分承知の上での復帰はずです。

ルマンで水素エンジンを投入するトヨタ

ル・マン24時間レースで知られる世界耐久選手権も、現在、レギュレーションでガソリンエンジンの使用が義務付けられるなど後進性が否めません。2010年代に入ってからはモーターの搭載も可能になっていますが、モーターの出力、使用機会などが制限されていて、日本の市販車でいうマイルドハイブリットの域と言ったところでしょうか。

その世界耐久選手権もF1同様、ようやく2026年からの新レギュレーションで、燃料電池車(モーター駆動)が走行するようになることが、アナウンスされていました。

さらに、ホンダがF1復帰を発表した2日後の5月26日に、ルマンを主催するACOフランス西部自動車が、2026年から、水素エンジン車のエントリーが可能になることが発表したのです。

この決定は、水素エンジンの開発を進めるトヨタの強い要望に答えてのものです。

発表当日には、トヨタの水素エンジン車が耐久レースに参加している日本国内のレース会場で、ルマンを主催するACOフランス西部自動車のピエール・フィヨン会長がトヨタ佐藤社長と同席で記者発表を行うというサービスぶりでした。

ハイブリットとEVはどちらが環境に優しいか。

日本で主流となっているハイブリットは、ガソリンやディーゼルエンジン車に電気モーターを搭載し、エンジンが発電が発電した電気でモーターを動かすことで、エンジンの使用を抑えて、燃料の使用量を抑えると同時に、二酸化炭素などの排出を低減するものです。

PHEVは、このシステムの電気を外部から充電することで、よりエンジンの稼働を抑えています。

一方、現在の世界の主流は、外部から電池に充電した電気でモーターを動かすといわゆるEVです。今や時価総額でトップを走るアメリカのテスラ社や、中国、欧州では、この方法が主流で開発が進められています。

電気を取り込み電気での駆動なので、排気ガスを全く出さないので、環境に最もやさしいシステムに思われがちですが、必ずしもそうとは言えません。

日本をはじめ世界では、まだまだ石炭など炭素系燃料で発電する比率が高い国が数多くあります。今や世界最大の自動車大国となり、EV化で先行する中国もその一つです。そうした国々では、EV車の走行自体では排気ガスを出しませんが、充電する電気を発電する段階で、多くの二酸化炭素を排出していて地球温暖化に拍車をかけています。

家庭での太陽光発電がもっと普及して、そこで発電した電気だけで車も充電できるようになれば良いのですが、日本をはじめ多くの国々は政府は決して熱心ではありません。

ですから、日本のように発電に石炭の依存度が高い国々では、EVよりもハイブリットの方が環境にやさしい可能性があります。

EUではフランスの主導で、2035年からはEV車以外の新車の登録を認めない方針でしたが、ドイツやイタリアの反対で、カーボンニュートラルの合成燃料を使った内燃エンジン車も認めることが3月発表されたばかりです。

日本では、EUの環境対策に抜け穴が作られたという報道が多かったようですが、ロシアのウクライナ侵攻で、天然ガスによる発電が後退した国が多く、その結果石炭発電が比率が高まり、さらにウクライナ侵攻の長期化が予想される中では、ロシア産天然ガス離れが進むと、ヨーロッパでもEVが必ずしも環境負荷が低い選択肢とは言い切れない状況が起ります。

原子力発電が占める割合が高いフランス主導にEV推進に対して、ドイツやイタリアは既存の自動車関連の労働者の雇用を守ることを理由に、EV車以外の禁止にストップをかけました。

反対の理由はそれだけではないでしょう。中国と近い関係にあるフランスの自動車会社が、中国製部品を使って製作したEV車がヨーロッパ市場を独占したり、フランスを通して中国製のEV車が大量の流入することを危惧したと考えられます。

そうしたEV車の多くは、FCと呼ばれる燃料電池でモーターを稼働させる車の開発が行われています。主にe-fuelと呼ばれる水素と二酸化炭素の合成燃料をで発電し、モーターを回す方法です。

一方で、トヨタは、2000年代から水素燃料を動力源にした車の開発をしていて、2016年からは水素と酸素で発電してモーターで駆動する燃料電池車「MIRAI」を市販しています。

水素エンジン車で世界の自動車業界に一石を投じるトヨタ

さらに、トヨタは水素燃料でモーターではなく、エンジンを稼働させる水素エンジンの開発を進め、2年前から国内レースに投入を始めています。その延長線上にあるのが、今回発表されたルマンのエントリーとなります。これまで使っていた気化水素から、液化水素に変更することで、このエントリーが現実のものなったのかもしれません。

これからの3年間で何が起こるかわかりませんが、トヨタ以外で飛躍的な開発の進展がない限り、トヨタの水素エンジンの車両が、ルマンで大きなトラブルなく走り切ることができれば、たとえ優勝に手が届かなくても、大変な快挙であり、再び自動車の駆動方法に大きな変化をもたらすかもしれません。

現在のEV車の多くはリチウム電池を搭載していますが、アメリカのテスラ社や、中国とその中国と政治的にも経済的にも結びつきが強いフランスの自動車メーカーが、そのEV車の開発で先行している理由の一つに、中国産のリチウムの存在にあります。

もし、トヨタが開発する水素エンジンがルマンで完走し、その安全性と耐久性が立証されれば、ルマンの地元のフランスを長年支えてきた自動車メーカーにも、大きな方向転換を強いる可能性さえあるかもしれません。

リチウム電池をエネルギーにしたモーターで走行するとEV車よりも、水素燃料を使った内部燃焼エンジンの方が、環境負荷が少ないと言われているからです。しかも、以前からあるガソリン車やディーゼル車の内燃エンジンの技術が転用できるのです。

ルマンの主催者がトヨタの水素エンジンの参加を認めたということは、それだけ、ルマンが環境対策の面で、厳しい立場に立たされていることに他なりません。

尚、5月26日〜28日に開催された富士耐久24時間レースに出場した液体燃料を積んだトヨタの水素エンジン車はクラス最下位ながら、完走を果たしています。

それでもモーターレースはノスタルジー

日本のレースシーンも、海外同様に、徐々にではありますが環境対策を始めています。

例えば、日本の4輪レースの三つのトップカテゴリーのひとつであるスーパーGTは、今シーズンからバイオ燃料の使用を義務付けています。

やはりトップレースの一角を占めるスーパー耐久では、2021年から実験的な車両が参加できるST-Qというカテゴリーを新設して、ガソリン車とは違った車両のエントリーを促しています。

対象となるのは、環境対策を目指した車両だけではありませんが、このカテゴリーにホンダは市販車をベースにした、カーボンフリーの合成燃料でエンジンを動かす車両を投入しましています。

また、マツダも昨年から、バイオディーゼル燃料を使用した車両を投入しています。

レースシーンで、環境対策が必要とされるのは、こうした燃料や駆動方法だけではありません。例えば、レースのたびにコース上の大量に発生するタイヤカスも、環境破壊の要因の一つだと言われています。

レース後に廃棄されたタイヤカスや雨で流れたカスが最終的に海に流れて、海洋プラスチック同様の環境破壊に繋がると言われています。

現在のタイヤメーカーの環境対策の方向性は、再生プラスチックやペットボトルなど原料のリサイクル化に力を入れていますが、タイヤかすが自然環境で素早く分解する製品の開発も必要となっています。

天然ゴムなど天然素材を100%使用すれば、環境にやさしいのは間違いありませんが、耐久性やグリップ力の点から、まだまだ天然素材だけに移行することは難しいようです。

さらに、モーターレースが求められる環境対策は、このようなレースシーンだけではありません。

F1を「F1サーカス」と呼ぶことがあります。日本ではF1がサーカスのように楽しみ満載のイベントだという意味で使われることが多いようですが、本来の言葉の意味は異なります。

F1チームが移動する時のトレーラーの隊列を指して言われた言葉です。その姿が、昔、馬車や車を連ねて移動していたサーカスのようだという意味です。

現代のF1チームの移動の隊列は半端ではありません。各チームごとに数台の大型トレーラーが連なって移動するのです。しかも世界を転戦するF1では、大陸間の移動にはそのトレーラー丸ごと輸送できる大型輸送機が使われます。チームごとに多少の違いがあるにしても、10チーム以上がそうやって移動するのです。

つまり最も環境負荷の大きい要因の一つと言われる、ジェット燃料を垂れ流しながら移動していることになるのです。

もちろん、規模の違いはあっても世界を転戦するモーターレースに共通しています。

果たしてこうした課題について、モーターレース界はどんな解決策を見出すことができるでしょうか。

F1というレースの存在、そのレースに参戦すること自体が、ノスタルジーなのかもしれません。そして、それはF1だけでなく、既存のモーターレースに共通して言えることかもしれません。

しかし、ヨーロッパほど環境対策に関心が高くない、どちらかと言えば無関心な人が多い日本では、こうしたモーターレースの環境対策に否定的な考えの関係者やファンも多いと聞きます。

ホンダの創業者で、日本屈指の企業家と言われる本田宗一郎氏は、チャレンジングスピリットの重要性が唱え、ホンダは今もそれを社是のようにしているようです。

世界から見れば遅れをとっていた本田氏の時代には、バイクや自動車の国際的なレースに出場し好成績を目指すことは、チャレンジだったに違いありません。

しかし、現代ではどうでしょうか。レースに参加することや優勝を目指すことが、果たしてチャレンジと言いきれるでしょうか。

地球規模の環境対策が叫ばれる中で、すでにF1などのモータースポーツで活動すること自体が、後ろ向きな姿勢と言えなくもありません。むしろ、撤退することの方がチャレンジイングとは言えないでしょうか。

レースに参加するそのこと自体が、ノスタルジーに等しいのではないでしょうか。

6月20日化石燃料を使用しない電動車で世界一を競うフォーミュラE(F1の電動車版)の来年の一戦が、東京で開催されることが発表されました。市街地の公道で開催されるこのレースは、東京ではお台場周辺の臨海部で開催されるそうです。

モーターレースの中で最も環境対策が進んだレースシーンであるこのレースでは、100%モーターで走行するために、モーターレースの大きな魅力の一つであるあの爆音を聞くことはできません。

出力面でも厳しく規制され、スピードもかなり抑えられているために、安全性が確保されているほか、問題視されているタイヤカスの発生などの環境負荷も抑えられます。

来年、東京で開催される最も先進的で環境問題に対応したこのレースは、日本のモーターレースファンだけでなく、周囲に住む人々も、これまでのモーターレースのイメージが一変させるはずです。

爆音を鳴らし、タイヤスモークを吹き上げて走り回るモーターレースの魅力は、今、人類が目指さなければいけない方向とは逆方向なのです。