集客は来季に期待、戦いは極めて残念
12月1日に開催された東京武蔵野シティFCの最終戦は、ホーム武蔵野陸上競技場に2608人の観客を集めました。この数字は、この競技場で開催されたこのクラブのホームゲームとしては、1999年のJFL昇格からの歴史の中で、直近の11月10日の5284人、11月2日の3828人に次ぐ3番目の数字です。クラブからすでに今シーズンのJ3昇格断念が発表されているにも関わらず、昨シーズンまでの平均が800人台だったこのクラブが、これだけ多くの観客を集めたことは、来年以降に大きな期待を持てると言えるでしょう。
この結果、今シーズンの平均観客動員数1791人となり、やはりチームとしては過去最高の数字となりました。ちなみに、今シーズン15試合の内、4試合は北区にある味の素フィールド西が丘で開催していて集客に苦戦しているために、武蔵野陸上競技場で開催された11試合だけの平均は2098人と目標となる2000人を超える結果となりました。
各年毎の武蔵野の平均観客動員数
シーズン | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 |
観客数 | 599 | 703 | 489 | 530 | 441 | 576 | 680 | 688 | 673 | 1005 |
2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 |
762 | 776 | 716 | 715 | 770 | 739 | 817 | 853 | 706 | 844 | 1791 |
チームが最終順位4位と昇格圏内をキープしただけに観客数が及ばなかったのは惜しまれる結果ですが、これまでにない多くの観客を集めたホーム武蔵野陸上競技場での終盤3試合で、2分1敗に終わったことは猛省すべきだと思います。多くの観客が残念な思いでスタジアムを後にしたことでしょう。
東京武蔵野シティFCにとってJリーグを目指すということは
1999年に初めて全国リーグであるJFLに昇格したこのクラブが、いつからJリーグ昇格を具体的に意識し始めたのかはわかりませんが、おそらく2007年のNPO法人化がひとつのきっかけだったことは間違いないでしょう。この時に法人名をフットボールクラブにせずに「武蔵野スポーツクラブ」としたのには、より多くの地域住民を巻き込みたいという願いがあったようです。一方で、チーム名はそれまでの横河武蔵野フットボールクラブのままと企業名を残しています。
この頃、具体的にJリーグ昇格を目指すことを外部に表明したわけでもなく、古矢武士、依田博樹と2代続いた生え抜き監督の将来性も面白みもないサッカーでも、JFLとしてはレベルの高い選手が集まったのは、やはり東京都内、しかも中央線の沿線の一等地にクラブの拠点があるという地の利だろうと思われます。
どこに行くにも便はいい。遊びに行く場所にも困らない。最寄駅の三鷹の隣の駅は吉祥寺だし、新宿も渋谷も電車で20分以内。東京でプレーしていればもしかするとJリーグ関係者の目に止まることもあるかもしれない。そんな仄かな期待を持っていた選手もいたかもしれません。
当時からのこのチームのもう一つの姿は、独立した法人となったと言っても事実上の横河電機という企業の社員チームとしての姿です。横河電機は一般的には決して有名な企業ではありませんが、日本屈指のグローバル企業です。その横河電機が事実上のサッカー枠で大学時代に実績のある選手を入社させ、自らのサッカー部のようにこのクラブで社員をプレーさせていたと聞いています。将来を考えるとプロでサッカーを続ける自信はないけど、レベルの高い仕事をしながら、若いうちはサッカーも真剣にやりたいという選手にはうってつけのクラブだったはずです。
法人化した2008年シーズン当時は、ほとんどの選手が横河電機社員だったと記憶しています。これだけ大きな企業で、社員の選手が転勤などでチームを離れたという話をほとんど聞かないのは、厚遇されているからだろうと想像されますし、社員の選手が日常的に練習に参加できるように、現在も平日の練習は夜に行われています。また選手だけでなく、監督も前々任の依田博樹、昨年から指揮を摂る池上寿之は横河電機の社員ですし、コーチにも社員が多くいます。
その後、横河電機の社員選手が減り続けていますが、これがJリーグを目指すこのチームの方針なのか、軸足を海外に移している横河電機側の事情なのかは外部から見ていてはっきりしません。
今回Jリーグ昇格のためにチームとしては歴史的な観客が集まったことを除けば、このチームのピークは2012年に天皇杯でベスト16になったことでしょう。特にFC東京を破った試合はセンセーショナルでしたし、この年初めて天皇杯に優勝した柏レイソルにも0対1とあと一歩のところで破れています。
この頃、チーム関係者が、2009年にJFLで優勝を争い最終的に2位になった時よりも周囲の反響はずっと大きかったと話していました。JFLのチームには、闇雲にプロ化、Jリーグ昇格を目指すだけでなく、アマチュアチームとしてJFLを制覇を目指しながら、オープン大会である天皇杯で結果を残すことも選択肢であろうと思われます。おそらく、Jリーグの門番とまで言わしめるJFLの強豪ホンダFCやソニー仙台はこの理念を持っているかもしれません。現実に今年JFLで圧倒的な強さを見せて優勝したホンダは天皇杯でもコンサドーレ札幌、浦和レッズを破るなど目覚ましい活躍を見せてくれました。
J3昇格を目指すのはチーム存続のため
実際に東京武蔵野シティFCが、具体的にJ昇格を表明するのはJ3が始まった翌々年の2015年11月。2016年に初めてJリーグ昇格に向けてJリーグ100年構想クラブに申請を行います。また、この年から、それまでの横河武蔵野フットボールクラブから企業名の横河を外し、現在のチーム名に変更しています。
一方で、この20年の間に日本のサッカーの風景は大きく変貌しました。このチームが全国リーグに上がった前年の1998年にようやくワールドカップに初出場した日本代表は、いつの間にかワールドカップの常連になり、1次リーグ突破が宿命になるまでのレベルになっています。選手のレベルもあがり、当時イタリアに渡った三浦知良選手一人だった海外でプレーする選手は、現在ヨーロッパだけでも20人以上を数え、毎年のようにヨーロッパや南米、時には北米やアジア、中東にも渡っています。JリーグもJ3までできて、クラブ数も50クラブ以上を数えるようになっています。以前のコラムにも書きましたが、このJリーグのクラブ増加の影響によるJFLの地盤沈下は明らかです。
東京武蔵野シティFCがJリーグを目指すきっかけになったのは、J3が創設された結果、優れた選手が集めることができなくなり、今後JFLに留まることにも危機感を持ったため、クラブ存続のためにJ3昇格を目指すことになったと聞いています。
Jリーグ昇格のために立ちはだかる大きな壁
JFLに加盟するクラブがJリーグに昇格するためにはJリーグが定めた数々のハードルをクリアする必要があります。今シーズン昇格を決定したFC今治にとって最後のハードルとなったJFLの順位、東京武蔵野シティFCが今年ようやく達成したリーグ順位4位以内もその一つです。今回の注目された1試合あたりの観客動員平均2000人もその一つです。その他にも数々の課題がありますが、今後JFL以下のチームがJリーグを目指すにあたって最も大きな課題になるのはホームスタジアムだろうと思われます。
東京武蔵野シティFCがホームグウンドとする、武蔵野陸上競技場のバックスタンドからゴール裏は芝生席です。この部分がJリーグの基準に合っていないだろうと思われます。また、上記のスタジアム基準を見ると、メンバー表を出せる電光掲示板の設置も必須になっていますが、武蔵野陸上競技場にあるのは手動の得点板と陸上競技用の針の時計だけです。
さらに今後大きなハードルとなるのは、2023年シーズンからJ3でも照明施設が必須になることです。テレビやネット中継の編成の自由度や温暖化、集客などを考えれば当然の変更と言えますが、クラブや支援する行政には大きな負担を強いることになることも事実です。
東京武蔵野シティFCでは、これまで武蔵野陸上競技場をメインに、夏のナイターシーズンのみ味の素フィールド西が丘などを使ってきましたが、2023年以降はこの運用では対応できなくなります。前回のコラムでも書きましたが、照明設備の設置とナイターでの試合の開催は、周辺住民の住環境を劇的に変化させる大きな問題なだけに、武蔵野市のような住宅街にあるスタジアムではより大きな障壁になってしまいます。
Jリーグはクラブにスタジアム建設を促しますが、今の日本でチーム単独でスタジアムを建設することはあまりにも高いハードルです。ガンバ大阪やサンフレッチェ広島のようにJ1で十分な実績があり、背後に大企業が付いていない限り現実的ではありません。京都サンガが来シーズンからホームスタジアムとして使用する京都府立の新スタジアム・サンガスタジアム by Kyoceraの場合も、その名称の通り事実上の親会社の影響が大きかったと想像できます。
一方ではJ3での照明設備の義務化は多くのJ3チームの周囲で、スタジアムについての議論を活発化されているようです。
秋田
盛岡(2020年7月加筆)
相模原
東京武蔵野シティFCと同じJFLのFC大阪も大きな動きを見せています。今春、ホームタウンを東大阪市に定めましたが、その東大阪市にある東大阪花園ラグビー場の第2グランドのスタンドなどを、FC大阪が整備することが東大阪市に承認されたというニュースです。東大阪市はラグビーが盛んな土地柄で、東大阪花園ラグビー場は、長年に渡って社会人ラグビーの決勝や高校選手権の全国大会が開催されるなど、ラグビーのメッカと言っていい場所です。今年のラグビーワールドカップでも会場のひとつになりました。複数あるグランドの内、第1グランドはワールドカップに合わせて大規模な改修がされていますが、 FC大阪は手付かずの第2グランドに目をつけたようです。
当然、FC大阪にとっては今後Jリーグ昇格も見据えて、ホームグランドとして使用する前提での整備だと思いますが、日常的にラグビーで使用されるグランドがサッカーの全国レベルの公式戦の会場として継続的に使用可能かは、スケジュールはもとよりコンディションの点で未知数だろうと思います。
高校ラグビーの全国大会は、JFLの開催期間とはかぶらないので問題はないと思いますが、練習場としても使用しているというトップリーグや大学リーグの使用頻度を落としてもらう必要性も生じるかもしれません。
FC大阪は、今季から東大阪市との提携を結びホームタウンに定めながら、試合は東大阪市から離れた豊田市にある大阪府立服部緑地陸上競技場を中心に、万博スタジアム(茨木市)、J-GREEN堺メインフィールド(堺市)など大阪府中を転戦しています。練習場も東大阪市内ではほとんどできず、大阪府全域に点在している印象です。会場を抑えるために奔走するスタッフのことを思うと頭が下がります。大阪で生まれ下部リーグから一歩一歩昇ってチームが、J昇格というこれまでにない大きなハードルを飛び越えるために東大阪に活路を見出そうとチャレンジをしているのでしょう。大スポンサーを持たないこのチームが、スタンドの改修のための資金をどのようにして集めるのか? その手法に注目です。
来シーズンの東北リーグからJFLに昇格が決定しているいわきFCは、J3昇格の前提となる「Jリーグ100年構想クラブ」への申請をすでに明らかにしているようです。下記の記事では観客動員を昇格に向けた課題にあげているようですが、東北リーグで使用していたいわきFCフィールドは人工芝のためにJFLでは使用できないため、まず来季に向けて天然芝の試合会場の確保が最優先であり、さらにJリーグ昇格に向けてはJリーグのスタジアム条件にあったスタジアムを、ホームグランドとして優先使用できるように行政として調整をしていく必要があります。場合によっては既存のスタジアムの大規模な改修が必要になる場合もあるかもしれません。
東京でのスタジアム建設の現実
東京武蔵野シティFCの話に戻しましょう。東京都内に住んでいる方にはよくおわかりになると思いますが、特に東京武蔵野シティFCのように都内をホームタウンにするクラブにとっては、新しいスタジアムの建設は至難の技と言っていいと思います。近年、都内のスタジアムの構想は起きては消えを起こっては消えを繰り返しています。
現在進行中の話としては、今シーズン冒頭にFC東京が発表した、渋谷のNHKに隣接した陸上トラックの織田フィールドとサッカー場の場所に3、4万人規模のサッカー専用スタジアムを建設するという構想があります。現職の長谷部健渋谷区長も「代々木公園のスタジアム整備」を堂々と公言しています。東京都西部では多摩市が多摩市陸上競技場をヴェルディが使用する前提で大型スタジアムに改修する構想があったはずですがその後どうなったでしょう。その他にもヴェルディの社長が口を滑らせたためにたち消えになったと言われる豊島園の隣接地の話がありましたし、豊島区や足立区でもスタジアム建設の話が聞こえていましたが最近は聞こえなくなりました。ラグビーでは、日野市にある日野自動車の工場の跡地に、日野自動車自身が現在トップリーグでプレーするラグビー部のためにスタジアムを建設する話があるようですが、こちらも具体的な話は聞こえてきません。いずれにしても、東京都内でスタジアムを新設したり、スタジアムの大規模な改修することの難しさを物語っています。
都市部のスタジアム建設のハードルが高いのは地価が高いことや単に大きな土地が無いからだけが理由ではありません。自分たちの住環境に対する価値観や税金の使い方に対する住民の目が厳しいからです。
東京都内ではありませんが江戸川を挟んですぐお隣の千葉県浦安市をホームにするブリオベッカ浦安は、JFLにいた2016年からの2年間、市内にJFLが定める基準のスタジアムがなかったために試合会場を松戸市や習志野市などの市外のスタジアムを転戦しました。2017年に15位だったために地域リーグに自動降格しましたが、スタジアムがホームタウンに固定できなかったことは集客やスポンサー獲得の上で大きなハンデであり、将来構想を描く上でも障害になったはずです。
ブリオベッカ浦安はJFLに規約の緩和をお願いするととも共に、ホームタウンである浦安市には試合会場の改修の要望を出し続けていた聞いていますが、現在も叶っていません。浦安市は市内に東京ディズニーリゾートがあるために税収的には比較的豊かな自治体です。その資金的に余裕がある自治体が、スタジアム建設や改修という選択をしなかったのは、サッカークラブの社会的な価値と市民にとってのスタジアムの利用価値を、街作りや福祉、教育などのその他の税金の使い方と比較した結果の判断に間違いありません。
同じことが、東京武蔵野シティFCがホームタウンにする武蔵野市にも言えるだろうと思います。武蔵野市もまた国内で数少ない健全財政の自治体ですが、今後武蔵野陸上競技場の照明設備の設置などの大幅改修に向けて市民の合意形成を得ることは、クラブにとっても行政にとっても、とても難しい課題だろうことが想像できます。
一方で、千葉県がスポーツチーム用地として一般入札の末売却した浦安市の臨海部の空き地は、NTTグループが天然芝のラグビー専用グランドと関連施設として整備し、今年のラグビーワールドカップの公認キャンプ地として、ニュージーランドや南アフリカなど強豪チームの誘致に成功しています。今後はアークスラグビーパークの名称でトップリーグのNTTコミュニケーションズ・シャイニングアークスの練習場兼試合会場として使用されます。これまで企業スポーツとして推進されてきたラグビーの力を見せつけられた結果になっています。
全国の5000のアマチュアチームが目指すJFLはもっと多様性が必要では
タイトルでは「下から眺めた風景」と書きましたが、JFLは公式登録しているだけでも全国5000前後ある社会人チームの目標であり、アマチュアチームにとっての頂点でもあります。近年JFLに昇格し、将来Jリーグ昇格を目指しているクラブの経営者の方にお話を聞くと、Jリーグの昇格を目指しているようなクラブでも、JFLを目標にしてきて、そこに昇格できたことで一安心している様子でした。同時に思った以上に全国リーグでの運営にお金がかかることに驚いていらっしゃいました。彼らがいた全国を九つに分けた地域リーグと全国リーグでは遠征費をはじめ運営資金に大きな差があることは自明ことではありますが、現実は想像した以上だということでしょう。
宮城県女川町をホームタウンにするコバルトーレ女川は2018年にJFLに昇格しましたが、この1年間で地域リーグに戻ってしまいました。このチームがホームタウンとする宮城県女川町内には東北リーグで使用していた人工芝のグランドしかなく、ホームの試合を宮城県内の天然芝のスタジアムを転戦して戦っていました。
女川町は東日本大震災で壊滅的な被害のあった人口約6500人の漁業の街で、以前ホームグランドとして使っていた陸上競技場は、現在も避難住宅の敷地として使用されてます。このクラスの街をベースにしたフットボールクラブは、財政的にも全国リーグは荷が重いことは想像できますが、本来はあのような街のクラブでも、サッカーを通して一緒に盛り上げていくことが出来れば良いのになあと思います。
例えスタンドが小さくて、少々基準に満たないところがあっても、試合自体の運営と公平性が保たれていれば競技の上では問題がないはずです。全国からサッカークラブが女川を訪れて試合をし、そのクラブのファンが女川で地元の人たちと試合を観戦する。サッカーがそうした環境を創出することができれば、街がより活性化され今も続けられている震災復興の一助となるでしょう。そういう寛容さ、懐の広さがあれば、サッカーは日本でもっと多くの人に愛されるスポーツになれると思うのですが、とても残念です。
その女川町で、来年春の完成を目指して、天然芝の球技場建設の計画についての2017年の記事を見つけましたが、その後の進捗はいかがでしょう。
Jリーグ加盟への高いハードルは誰のために
J3の創設が計画されてたいた頃のJリーグの調査では、Jリーグを目指す意思があるチームは全国で90チームを超えていました。その後創設されたJ3は最大で44チームを東西で22チームをずつ分けるところまで想定されていたはずです。しかし、J3創設から6年、創設時にJFLから加盟または地域リーグから飛び級で加盟資格を得た10チームを除けば、Jリーグに加盟を果たしたチームはレノファ山口、鹿児島ユナイテッド、アスルクラロ沼津、ヴァンラーレ八戸に今年のFC今治を加えて僅か5チームです。現状、東京武蔵野シティFC以外に、すぐにJ3に昇格できる条件を備えJ3クラブライセンスを取得したチームはラインメール青森、奈良クラブの2チームのみです。東京武蔵野シティFCもスタジアムの特例処置を利用しなければ、昇格条件に満たないのが状況です。JFL以下のチームの現状を考えた時に、Jリーグが用意したハードルがいかに高いものであるかが分かります。
そもそも全国の多くのサッカーチームはなぜJリーグを目指すのでしょうか? 12月10日に東京武蔵野シティFCの試合に5284人の観客が集まったことは、チームを応援する皆さんや地元の皆さんのJリーグ昇格への期待の表れであり、それだけJリーグがブランディングされ、多くの人にとって注目や期待の対象となっているということです。
しかし、昇格した先の現実も決して楽観できるものではありません。今年のJ3の試合で、東京武蔵野シティFCが集めた5284人より観客を集めたクラブは5つしかありません。昇格条件となっている年間を通して平均2000人以上を集められないクラブが5チームあるのです。少なくともJ3のレベルでは、JリーグというだけでJFL以上に注目を集められるとは限らないということになります。
街のシンボルとして活動するフットボールクラブが、必ずしもサッカーチームの運営を専業とするプロ組織である必要はありません。ラグビーのように企業チームでも十分にその役割を果たすことは可能です。東京武蔵野シティFCのように大企業に属していないクラブでも、資金的なバックアップと行政的な連携があり、地域住民の応援があれば十分にJリーグが掲げる理念にかなった活動ができるでしょう。
ヨーロップ各国では、同じリーグにプロとアマチュアのチームが混在して、日本代表クラスの選手が所属するようなリーグでも、別に仕事を持ちながらプロ選手と一緒に試合に出場する選手がいると聞きます。文化の違いでしょうか? 歴史の違いでしょうか? それとも寛容さの違いでしょうか?
例えば、ホンダFCやソニー仙台が今の体制のまま、J1やJ2で戦うことにどんな不都合があるのでしょうか。彼らがアマチュアチームのまま世界を目指したとしたらどんな問題があるのでしょうか。
最近ふと思い出し、木根尚登さんが書かれた「武蔵野蹴球団」(文庫化の際に「いつか見た空〜武蔵野蹴球団〜に改題)という小説をamazonで古本を買い求めて読んでみました。1992年新刊当時に購入して読んだ時にはそれほどの違和感が無かったと記憶していますが、今読むと荒唐無稽なお話です。
地上げ(この言葉も最近は気なくなりましたが)に対抗するために、吉祥寺の商店街で働く高校時代の元チームメイトが作ったサッカーチームが、いきなりバイエルンミュンヘンという当時世界トップのドイツのフットボールクラブと10万人の観客の前の対戦するというおとぎ話のようなストーリーです。著者のあとがきにはJリーグ創設に触発されて書いたと書かれていました。今だったら一笑されそうなストーリーですが、突然目の前に現れたまだ見ぬJリーグへの期待感と日本のサッカーや社会が今よりもずっとおおらかだった時代感を、物語を通して思い出させられました。
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