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もう一度、観客5284人の意味を考える〜チームは誰のものか?〜

もう一度、観客5284人の意味を考える〜チームは誰のものか?〜


重要な決断した理事会とはどんな会?

 JFLに加盟するフットボールクラブ、東京武蔵野シティFCのホームページに、「来季のJリーグクラブライセンス申請について」と題して、井草直人理事長の名前で、来シーズン、クラブライセンスの申請を行わないことが発表されました。来シーズンはJリーグを目指さないという宣言です。文面から苦渋の決断であることは十分伝わってきましたが、この文章を読んで、クラブライセンスを申請しない決断に納得をした人はどれくらいいるでしょう。

www.tokyo-musashinocity.com

 以前、書いたように、このクラブがJ3を目指したそもそもの理由が「チームの存続のため」だとすれば、少なくとも来季に限ってはそのチーム存続をかけなければならないほどの大きな決断をしたということになります。Jリーグに昇格を目指すことを表明してから4年間かけて集めてきて、今年4位という結果を残した選手たちはチームを去ることが想像されますし、Jリーグの昇格を目指すからこそ集まった企業からの支援も失う可能性があります。その結果、チームが危惧していたJFLから降格するほどリスクを負っても、シーズン終了直後のこのタイミングでこうした発表をするには、そこに至るための説明が到底足りていないと思います。

この組織にとって重要な三つのポイント

 近年のこのチームの様子や5284人を集めた11月10日の試合から今回の発表までの流れを通して見て、このチームに必要だと筆者が思うことを提案したいと思います。ポイントは大きく言って下記の3点だと思います。

  • 意思決定プロセスの透明性
  • 様々な立場のより多くの人が参加できる環境づくり
  • チームが、応援する全ての人のものであるという視点

 今回の発表では「理事会」という言葉が登場します。このチームの組織がNPO法人であるので理事会に大きな決定権があり、組織のトップが理事長であるのは分かりますが、理事会はどんなメンバーで構成され、例えば、今回、何をきっかけにどのようなプロセスでこうした話し合いが行われたのか、全く見えてきません。そもそも、通常こうした組織では理事会の上に総会があるはずですが、その総会はどうなっているのでしょう。今回の意思決定に関わってこないのでしょうか?

 今回の発表に「現状の体制を大きく変えていく必要があり」と書かれている通り、体制=組織の改革は必要でしょう。Jリーグを目指すに相応しい組織として、チームのビジョンや運営方針など重要事項を決定する際のプロセスと決定そのものが、多くの人に認知され、理解される組織になることが、今以上に多くの人に応援してもらえるクラブになるための最も近道だろうと思います。そうした体制に生まれ変わることでより多くの人々の共感を呼び、応援する仲間を増やします。現代では、こうした組織の透明性が組織としての社会的な価値を呼び起こすことに繋がるのです。

 さらに、その透明性を担保するためには、より多くの人がそれぞれの立場で関われる組織や環境を作ることが重要です。これを二つ目のポイントとしてあげたいと思います。企業チームや大スポンサーのみで運営が可能なクラブではその必要がないかもしれませんが、多くの支援を必要するチームでは、地元の自治体も含めて、より多くの立場の人が参加して意思決定をできる組織の構成が不可欠だろうと思われます。

 発表された文章の中で最も大きな課題としてあげているスタジアムの改修や新設の問題も、小さな組織の限られたメンバーで話し合って考えるのではなく、夢のある大きなビジョンを掲げて、それ共感したより多くの人、多くの企業などが話し合いにも参加することで、初めて実現が可能になるものではないでしょうか。少なくとも理事会のメンバーだけでは知り得なかった情報がもたらされることは確実でしょうし、現状打破のための目から鱗のアイデアが生まれることもあるかもしれません。

  三つ目にあげるのが、この組織の最も大きなウイークポイントです。このチームが誰のものであるかという視点に欠けていることです。本来、こうしたスポーツチームは応援する全ての人たちのものであるという視点が不可欠です。端的に言えば、東京武蔵野シティFCは11月10日に武蔵野陸上競技場に集まった5284人一人ひとりのものだと考え、そうした視点で活動を進めることがクラブには必要なのです。そうであるからこそ、例えば、公共施設である武蔵野陸上競技場を年間を通して優先使用することができますし、ボランティアとして無償で運営を手伝ってくれる人もいます。回収が全くと言って望めないJFLのようなレベルのリーグの場合には、多くの企業が同様の価値観やそれに共感することでお金を出しているはずです。

組織の閉鎖性が産む悪循環からの脱却を

 今あげた3つのポイントに共通していることは、組織としての閉鎖性ということになるでしょう。現在のこのチームの運営体制は、NPO法人の形を取りながら、実際には日本の古い体質の企業のそれではないでしょうか?

 閉鎖性の高い組織の中にいる人たちは、自分たちが閉鎖された環境にいることになかなか気づくことができません。そういう組織にいる人は、周囲からの呼びかけに耳を傾けることが苦手で、自ら助けを求めることもできない傾向があります。ですから、周囲の人たちが根気強く声をかけ続け、彼らの窓を開かせて、眩しい日光を照らしと爽やかな風を吹き込むことが必要なのです。

 私たちは、閉鎖性が産む悪循環を多くのスポーツ団体で見てきました。昨年のボクシング連盟や今年問題が発覚したテコンドー協会もその例にあげられるでしょう。最近発覚した同じJFL奈良クラブの観客数の水増しについても、ある視点では、Jリーグ昇格への思いと周囲の期待が原因と言えますが、やはり組織の閉鎖性が根本的な原因だと言えるのではないでしょうか?

サッカーを通した人々の幸せの実現を目指すクラブに

 東京武蔵野シティFCに変えて頂きたいことがもう1つあります。このクラブがJリーグを目指すきっかけは「チームの存続のため」だと聞いていましたが、これをぜひ、応援する人々の期待や夢の実現・・・「サッカーを通した人々の幸せの実現のため」に変えて頂きたい。クラブのためのクラブではなく、社会のためのクラブへの成長して頂きたいと思います。武蔵野市民や武蔵野市周辺のより多くの人たちと一体となって生まれ変わった組織として、東京武蔵野シティFCJリーグを目指す姿を、1日も早く見せてほしいと思います。

 

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