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サガン鳥栖、赤字20億円の衝撃

単年20億円赤字の衝撃

 佐賀県鳥栖市をホームタウンにするJリーグクラブのサガン鳥栖に、昨年度20億円にのぼる赤字が発生したことが、4月26日に行われた同チームを運営する株式会社サガン・ドリームスの竹原稔社長の会見を機に明らかになりました。この日、サガン鳥栖がホームページに公表した「経営情報」によると、2019年の鳥栖の売上高合計は約25.61億円。42.57億円あった前年から比較すると約16.96億円の減で、その内スポンサーからの広告収入が約22.96億円から約8.1億円と約14.86億円マイナスしています。その他、入場料収入と物販収入が併せて約1.57億円増えている一方で、「その他の収入」が約3.58億円減収しています。

 その一方で、支出の中で最も大きな割合を占める選手年棒などのチーム人件費は、2018年が約25.70億円だったものが2019年は24.27億で、わずかに1.43億円のマイナスに止まっています。この結果、2019年度単年で赤字額が20.14億円まで膨らんだのです。

株式会社サガン・ドリームス 2019年度経営情報開示について | サガン鳥栖 [公式] オフィシャルサイト

 20.14億円という金額は、同じデータで公表されているサガン鳥栖の2019年度の総売上高約33.53億円の約60%、過去最大だった2018年の総売上高49.07億円の約41%に登ります。(総売上高=「売上合計」+「売上原価」 10万の桁四捨五入)

 Jリーグが毎年公表している2018年度の「クラブ決算一覧」で、他のクラブの営業収益(売上の総額で単年の収入を表す)に当てはめてみると、この年のJ1最大だったヴィッセル神戸の96.66億円の20%近く、経営規模の少ない方では、札幌、仙台、湘南、長崎の営業収益の総額が20億円台後半となっています。この年のJ1全チームの営業収益の平均が47.55億円、J2は15.41億円です。こうして比較するとサガン鳥栖に生じた20.14億円の赤字がいかに巨額なものであるかがお分かりになると思います。

Jクラブ個別経営情報開示資料(平成30年度)|Jリーグ

サガン鳥栖の主な収支の項目(単位は億)

  2017 2018 2019
<入>営業収益(売上高合計) 33.51 42.57 25.62
<入>スポンサー収入(広告収入) 15.74 22.96 8.10
<入>入場料収入 6.31 6.78 7.60
<出>営業費用(販売管理費計+売上原価) 33.41 43.93 44.60
<出>チーム人件費 18.08 25.70 24.27
<出>当期純利益または損失 0.02 ▲5.82 ▲20.14

※2019年度経営情報開示について | サガン鳥栖 [公式] オフィシャルサイト

資本金に関するデータ(単位は億)

  2017 2018 2019
資本金 8.90 11.89 -
資本剰余金等 7.39 10.40 -
資本(純資産)の部合計 0.18 0.36 0.22

※データはJリーグ掲載のJクラブ個別経営情報開示資料データから。但し2019年「純資産」のみサガン鳥栖公式サイトから

紆余曲折あったサガン鳥栖の歴史

 サガン鳥栖は、他のJリーグクラブにはない波乱の歴史を辿っています。Jリーグが開幕した翌年の1994年、それまで静岡県でJリーグ入りを目指していたPJMフューチャーズ佐賀県が受け入れ、鳥栖フューチャーズとして官民一体となってJリーグ入りを目指すことになりました。しかし、1997年静岡時代から経営の中心だったPJMジャパンが撤退して財政難となったために運営会社だった佐賀スポーツクラブを解散することになります。いったんは佐賀県サッカー協会会長を代表とする任意団体となりますが、その翌年にはJリーグの支援もあって新たに株式会社サガン鳥栖として再スタートを切ったのです。

 翌1999年に誕生したJ2への参入を認められ、この年晴れてJリーグの一員となりますが、新法人の経営は安定せず、2005年にまたも財政難のためにクラブの経営を新たな発足させた株式会社サガン・ドリームスに移譲し、その体制が現在まで続きます。

 新体制移行後は積極的なチーム強化を続け、2012年には生え抜きのJ2得点王でのちに日本代表にも選ばれる豊田陽平を擁して初めてJ1昇格に成功し、その後も強化方針は変わらず次々と海外から監督を招聘する他、2018年には元スペイン代表の世界的な名選手、フェルナンド・トーレスを獲得しています。

 この間J2降格は一度もない一方で、J1での最高位は5位を2回に止まっていますが、ホームタウンと周辺の人口が他クラブに比べて少なく、地元企業や自治体も決して豊かと言えない地域のクラブながら、積極的な経営と強化は関係者から常に注目を集めてきました。

赤字を帳消しにした手法と透明性の課題

 昨年度の20億円を超える巨額の赤字自体も問題ですが、それ以外にも問題はあります。

 その1つ目は赤字の処理方法とその透明性です。報道によれば、サガン鳥栖を運営する株式会社サガン・ドリームスの竹原稔社長は、赤字分を増資によって処理したと語っているそうです。しかし、赤字は昨年だけではありません。2018年度も単年で約5.81億円の赤字があって、資本金などの記載はサガン鳥栖が発表したデータにはありませんが、Jリーグが毎年公表しているクラブ決済一覧を見ると、それが増資によって処理されたことが分かります。2017年度分と2018年分を比較すると、2018年シーズンの決算時の資本金は約11.89億円があり、前年の8.9億円から約2.99億円増え、「資本金余剰金等」も7.39億円から10.40億円に増えています。この増資分等でこの年の5.81億円の赤字を処理したのでしょう。利益余剰金がマイナス21.93億円ながらも、累積のすべての収支を表す「資産」では0.36億円と僅かにプラスになっています。

Jクラブ個別経営情報開示資料(平成30年度)|Jリーグ
Jクラブ個別経営情報開示資料(平成29年度)|Jリーグ

 ※2019年(令和1年)の経営情報はJリーグからまだ開示されていません。

 さらにサガン鳥栖のホームページに掲載されている「経営情報」によれば、2019年度の純資産額は約0.21億円。伝えられる竹原社長の言葉通り2019年単年で発生した20億円を超える赤字が増資によって処理されたとすれば、昨年だけで20億円もの増資が行われたということになります。この結果、資本金30億円を超える、Jクラブとしては京都に次ぐ巨大クラブが誕生したことになります。

 しかし、それは数字の上での話。数少ない大手企業の大口の協賛に依存した高支出体質とそのリスクによって生じる不透明感が拭えない増資の繰り返しでは、常に一昨年、昨年の繰り返しの可能性が想定されます。経営の健全性を図り将来に渡って多くの人の理解や協力を得た経営を続けていくには、まずは増資にいたる手続き、出資者(社)とその金額、出資方法や条件を明らかにすべきでしょう。

 今回の巨額の赤字の引き金になったCygames、DHCをはじめとする大手スポンサーの撤退の理由を、約束をしていた優勝を果たせなかったからだと竹原社長は話しているようですが、こうした情報は遡って公開されるのではなく、少なくとも発生時には関係する多くの人と共有されるべきものだと思われ、これは出資についても同様です。

 更に言えば、短期間に20億円もの出資を集めた経営陣の手腕には舌を巻きますが、組織運営の健全性を担保するには、経営陣と出資者の関係も明らかにすべきでしょう。

※大手スポンサー撤退の理由については4月30日のサポーターミーティングで竹原社長が事実を否定

今後の経営方針を明らかに

 2つ目の問題点は、今後の経営方針です。竹原社長は、2020年シーズンに向けて新規の大口スポンサー獲得を示唆してきたようですが、現在までに実現はできていないようです。上記のような不透明性を残したままでは、大手企業からの協賛は難しいと想像されます。

 重しとなっている人件費(多くは選手年棒)を、今年度は2019年度の半分以下の約11億円に減額したと伝えられますが、もし昨年並みの収入しかないとすれば、それでも少なくとも数億円近い赤字が計上されることになります。さら現在の新型コロナウイルスによる経済活動の停止もスポンサー獲得に重くのしかかり、現状を維持することすら難しいはずです。竹原社長が明言していると伝えられるオリジナルブランドの牛乳の販売だけは、とても太刀打ちできないことは間違いありません。

 今年度、来年度の短期だけではなく、中長期のクラブの経営方針も見直して、その下で現在の赤字体質を抜本的に改革する必要があります。その中には、経営陣の刷新や経営権の売却も含まれるでしょう。

 また、広い意味で地元の産業や経済への影響も十分に配慮し、計画、行動をする必要があります。そのためには、そうしたことが可能な人材の登用も必要だと思われます。

サポーターを納得させ、応援する県民世論の形成が不可欠

 本日4月30日夜に、テレビ会議システムを使って竹原社長ら経営陣とサポーターとのサポーターミーティングが開催される予定です。この場でどのようなことが語られるのでしょうか。サポーターの皆さんが納得し、今後も応援を続けてもらう状況を作ることができるか。それが大きな試金石となるはずです。

 このチームが最初に消滅の危機に直面した1997年当時には、熱心なサポーターの皆さんのエネルギーと佐賀県民世論の後押しによって、チームの存続が成し遂げられました。チーム名のサガン鳥栖命名もこの時期のサポーターや彼らの活動を支援した皆さんによるものです。20年以上の時を経て、もう一度、サポーターや地元の人たちのエネルギーを結集し、地域に根ざしたクラブとして活動を続けていくには何が必要か。多くの知恵と決断、総意が必要です。

 古い話で恐縮ですが、現在のジェフユナイテッド千葉が、ホームタウンの千葉県市原市からホームスタジアムや練習場の移転を初めて示唆した時に、当時の小出善三郎市原市長が川淵三郎チェアマンに語った言葉が筆者の記憶に残っています。

「市民の力で実現したものが無くなってしまう市民の喪失感は、サッカーだけに留まらず計り知れない。そんな思いを市民にさせたくない」

 サガン鳥栖は、全国のJリーグクラブが羨む駅前立地のホームスタジアムの使用を許され、練習場も佐賀県から提供を受けています。佐賀市や地元商店街なども街をあげての支援、応援を続けています。こうした資産を最大限に生かし、佐賀県民の誇りとしての活動を今後も長く続けていけるように、Jリーグクラブの公共性、社会性に見合った経営体制の確立が必要とされています。

 

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