スポーツについて考えよう!

日々、発信されるスポーツの情報について考えよう

新型コロナウイルス感染拡大のスポーツにおける影響を整理する 2

2.スポーツチームの経営の危機

ヨーロッパサッカーの混乱

 2月末までは、ヨーロッパの国内のサッカーリーグの多くは通常通りに試合が続けられていて、国境を跨いで行われるチャンピンズリーグも試合が行われていました。しかしヨーロッパで最も早く状況が悪化したイタリアで、3月10日に、セリエAがそれまでの無観試合から中断を決定すると、感染拡大とともに中止の輪が次々と各国に広がり、3月中にはほぼ全てのリーグが試合が中止されました。例年であれば5月には終了するリーグ戦やヨーロッパチャンピオンズリーグの打ち切りの可能性が高まっています。

 そんな状況でも、ヨーロッパの主管するヨーロッパサッカー連盟UEFA)は各国のリーグにリーグ戦を打ち切りにしないように圧力をかけているという情報もあります。

 各チームの経営状態が急激に悪化しているという報道とともに、選手の年棒の自主的な返金やチームによる一律のカットがニュースになっています。

 バルセロナのような世界の全てのスポーツチームの中でもトップクラスの経営規模を誇るようなチームでも、この間の試合の中止だけで経営が難しくなることには驚きですが、各チームの経営が急激に厳しくなるのは、シーズンを通した中でのタイミングが影響しています。

 ヨーロッパのサッカーシーズンは毎年8月から9月に始まって翌年の5月から6月に終了します。ですから昨年8月にスタートした予算でここまで動いていたチームが、シーズンの終盤になってリーグ戦の中断と同時に予定していた収入が断たれることになります。シーズンの会計の4分の1を残したタイミングなので修正が難しく経営的に厳しくなっているのでしょう。しかし、多額の放送権料や協賛金で多くは前払いなだけでなく、ヨーロッパの強豪チームではチケット収入もその多くが年間シートで前払いなはずですから、実際にリーグ戦が無くなって試合数が減ることがはっきりするまでは、報道されているような極端な減収とはならないはずです。

 だとしても最終的には各リーグを代表するようなビッグクラブはともかく、多くのチームは苦境に立たされるリスクが高いようで、すでに悲鳴をあげているチームやリーグもあります。

冷静な対応するアメリカ4大リーグ

 アメリカに目を移してみると、アメリカの4大スポーツはヨーロッパサッカーとほぼ同じタイミングのシーズンのNBAこそ、シーズンの中断で5月以降の選手のギャラの全額支払いに疑問符が付いていますが、そのまま各チームの経営難に繋がる話は伝わってきていません。他のリーグについては、経営的にはどこ吹く風という状況のようです。

 MLBでは、開幕から試合が行われていないことで雇用が失われているスタッフの給与を、リーグが補填をするという処置が行われています。これに賛同した選手から年棒の一部をこれに寄付する選手が現れています。

 世界でも最も多くの感染者を出しているアメリカですが、スポーツ界の様子は至って冷静な印象で、このあたりは、スポーツビジネスとしての経営の成熟度に差があるのかもしれません。また、自由競争第一主義のヨーロッパスポーツ、特にサッカーとは異なり、レベニューシュアという相互補助の原理の上に、全てのチーム、選手、関係者が一定以上の利益を配分、維持するシステムが、影響を最小限しているのだろう想像されます。

Jリーグに具体的な影響が出るのはまだ先の話

 日本に目を移してみましょう。ヨーロッパのサッカーチームの経営危機のニュースの影響を受けて、日本のJリーグクラブの経営難に直面しているという報道が散見されますが、今の段階では飛ばしの域と言っていいでしょう。

 その理由は、ヨーロッパのチームが経営難に陥る理由と同じように、タイミングによります。Jリーグは、2月の後半または3月前半からリーグ戦が始まったばかりで通常であれば11月末ごろ終了する予定です。

 それぞれのチームは、早いチームでは前年の夏頃から、遅いチームでは前年のシーズンが終わる頃から翌シーズンの協賛金のための営業を始めます。そして、実際に協賛金が支払われるのは2月から4月にかけてに集中します。日本のJリーグのチームのほとんどが1月決算のため、新年度に入った2月から開始され、支払う側が新年度の予算で支払いたい場合は4月に支払われることも少なくありません。金額が大きい場合は複数回に分けて支払われる場合もありますし、先方の都合でもっと遅い場合もありますが、いずれにしても、ほとんどのチームにとって3月から4月は最も多くの現金が口座にある時期なのです。

 この時期の最も多額の出費と言えばJリーグの会費で、J1で4000万円、J2で2000万円、J3で1000万円です。チームによっては選手との契約金などで多額の出費がある場合もありますが、ほとんどのチームにとっては、まとまった支出があるわけではありません。しかも、大きな支出の原因となるホームゲームの開催も遠征もないのですから、急速に現金が減ることはないのです。

シーズン終盤に向けて経営が悪化するチームが続出する可能性

 シーズンを通してみれば大幅な減収の可能性が高く、親会社のない独立系のチームや経営規模の小さなチームは、シーズンに終了に向けて存続の危機を迎える可能性があります。その要因の多くは固定費の発生です。その1つが人件費です。

 年棒で契約している選手も、12ヶ月または試合のある10ヶ月から11ヶ月に分けて月給として支払われます。年棒として契約している固定給に加えて、出場給や勝利給が結果に応じて月ごとに加算された支払われる仕組みです。監督やコーチなどのスタッフも概ね同様の契約がされている場合が多いでしょう。ただし、出場給や勝利給を支払うことができないチームも少なくありません。

 さらに事務局などのスタッフは一般の会社員と同様に月給として支払われます。育成や普及の指導者の多くも給料制の契約のチームが多いでしょう。

 この他に、クラブハウスやグランドの使用料を家賃として支払っているチームがほとんどのはずです。このあたりまでが試合の開催の有無に関わらず固定費として発生するコストです。

 これ以外の大きな支払いとしては、ホームゲームの運営費として施設の使用料や開催ための人件費、さらに遠征の際の移動費や宿泊費がありますが、試合が行われていない現在、原則として支払いは発生していません。

 一方で収入としては、主に年間で契約が結ばれる協賛金やJリーグから支払われる分配金、ホームゲームのチケット収入、レプリカユニホームやノベルティとも呼ばれるチームグッズの売り上げなどあげられます。チームによって大きく違いがありますが、ジュニアのスクールのいわゆる月謝も大きな収入源になっているチームがあります。

 現在の新型コロナの感染拡大防止のために試合が大幅に試合の延期やさらに試合数が減少した場合の影響について確認してみましょう。

 実際に試合が行われないことによって、試合ごとに入るはずだったチケット収入が入ってきていないことは自明です。グッズの販売にも大きな影響が出ているはずです。ただし、チケット収入の中で年間シートの分は、シーズン前に一括で支払われるので、浦和レッズようにその比率が高いチームほど影響は少なくなります。一方で、今後リーグが再開された際には、試合数を消化するために平日の夜に開催される試合が多くなり、その結果土曜日曜の開催比べて観客数が減って、チケット収入やグッズの売り上げが減少することも明らかです。

 年間契約される協賛金やリーグの年間契約に基づく分配金などは、試合数が変わっていない今の段階では大きな影響は出てないと想像されます。

 一方で、試合の自粛とは別に、育成の活動の自粛によって1ヶ月以上活動をしていないチームは、月ごとの月謝を受け取れない可能性があり、チームによっては経営に大きな影響を与える場合もあるでしょう。

試合数の減少がそのままチームの経営を悪化させる

 4月8日に緊急事態宣言が発布されたことによって、リーグの再開の見込みは全く立っておらず、試合数の減少が現実味を帯びてきました。実際に試合数が減った場合には、チケット収入が減ることは言うまでもありませんが、協賛金の減額も避けられないかもしれません。多くの場合はすでに支払い済みですから返金という手続きが必要になるでしょう。さらにリーグからの分配金についても、リーグへの放送権料や協賛金の支払いが減少する結果、チームへの支払いも減少する可能性もあります。

 協賛金を広告費で計上している大手企業は、試合減少=露出機会の減少に繋がることで、協賛金を減額せざるお得ない場合が考えられます。

協賛社がスポーツに協賛する体力を失う可能性

 さらにそうしたチームやリーグ側の状況に関係なく、経済活動の長期間の停滞によって協賛社自体の経営状態が悪化し、スポーツへの協賛どころではないという状況になる企業も少なくはないはずです。経営規模の小さな企業は倒産する可能性も十分にあります。その影響は2021年以降にも続くはずです。

 経営規模の小さなチームほど、街の商店や飲食店など小規模な企業からの協賛金に依存する比率が高く、その影響が大きいという面も見逃すことができません。

 こうした影響が具体的に表れてくるのは、おそらく6月以降ではないでしょうか。リーグの開催状況もはっきりして、協賛各社の経営状況もはっきりして、その結果各チームの経営状況もはっきりするでしょう。経営母体を持たない経営規模の小さなチームは解散の危機に立っているかもしれません。しかし事実上の親会社のある企業も安心できないでしょう。世界各国でリーマンショック以上の危機だと言われている中で、日本を代表するような大手の親会社でも、自らの経営が切迫した状況になった場合には、最初に切り離されるのはスポーツのような文化やエンターテイメントなのです。さらに言えば、ビッグクラブを経営的に支えるほどの力はリーグに残っていない可能性が高いのです。

他のプロスポーツが経営的な危機を迎える可能性

 ここまでは、主にJリーグのチームについて書いてきましたが、日本国内にはJリーグ以外に、女子サッカーLリーグと野球、バスケットボールのBリーグのプロリーグがあります。LリーグJリーグの小規模のチームと同じような状況でリスクが高いと言えます。運営母体が小規模なチームも多くリーグ存続自体に波及する可能性すらあるかもしれません。

 しかし、最も経営的に厳しい状況に置かれているのはBリーグかもしれません。先にも書いたタイミング的に、シーズン終盤の段階で感染拡大が起こり、リーグ戦を途中で打ち切って全試合を消化することができませんでした。

 Bリーグのチームを経営する法人は大手企業の子会社が多いですが、親会社を持たない地域密着型の独立系に法人も少なくありません。積極的なマネジメントで成功例とされる千葉ジェッツもそのひとつです。そうしたチームの多くが、大企業の子会社のような赤字を補填できるシステムを持たず、また地域の小規模の企業や商店からの協賛に依存する割合が高いことは、Jリーグの小規模のチームと同じです。また、Jリーグと比べるとリーグ自体の経営規模が小さい分、経営な体力も少ないチームが多いと予想されます。

 野球は、NPBはそれぞれのチームの経営規模が他の競技に比べて極めて大きく、さらに大企業や行政の支援を受けることができる体制が整っているので、一時的にはほとんど影響を受けないでしょう。Jリーグや他のスポーツとは違って歴史的な背景も含めて、企業経営の中でもプラオリティも格段に高いはずです。

 心配なのは独立リーグです。その多くは、経営的に独立性が高く、地元の中小企業や商店の支援を受けて小規模な予算をやりくりしながら経営しているので、試合ができないダメージはダイレクトにあるはずです。

 いずれの場合も、無傷ではいられません。傷をできる限り軽くするためには、競技団体やリーグ全体でバランスよく復旧、復興を目指すことが必要なのです。

 この続きではアスリート個人への影響を整理します。

 

 新型コロナウイルス関連のコラム

プロスポーツの新型コロナウイルスからの出口戦略
プロスポーツの新型コロナからの出口戦略 海外と国内の比較
新型コロナによる夏の甲子園中止の波紋

新型コロナウイルス感染拡大のスポーツにおける影響を整理する】
1- 東京オリンピック、パラリンピックへの影響
3- 個人競技と競技団体の危機
4- 子供や育成年代への影響
5 - スポーツクラブ閉鎖の影響
6 - 今だからスポーツがやるべきこと

新型コロナウイルス感染拡大に対するスポーツ界の対応(時系列のまとめ)】
4月〜
1月〜3月