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東京オリンピック、パラリンピックは本当に開催できると思いますか?

経済活動の再開と増える感染者。再開するプロスポーツ

 日本では、非常事態宣言が解除されてほぼ1ヶ月が経ったタイミングで、国内のスポーツも次々と再開を始めています。

 6月19日にプロ野球が開幕、JリーグはJ2、J3が6月27日に開幕、再開したのに続いて、7月4日にはJ1が再開します。また、6月25日には女子ゴルフツアーも開幕しています。いずれも現在は無観客での開催ですが、7月10日以降は、プロ野球Jリーグは、感染対策を行なった上で、最大5000人または定員の50%を上限に観客入れて開催することが決まっています。

 その他のスポーツも順次、再開を目指しています。

 一方で、夏の高校野球やインターハイなどの高校スポーツ、さらには最近中止が決定されたばかりの国体など、夏以降に開催される予定だったアマチュアスポーツの大きな大会が軒並み中止となっていることを考えると、再開が進むプロスポーツとの間で、矛盾を感じずにはいられません。

 幸い春の高校野球の代表校を集めて甲子園で記念大会を開催する他、都道府県単位で、夏の甲子園に代わる大会を開催する準備が進められています。しかし、同じ高校スポーツでもインターハイに代わる大会の開催はほとんどと言っていいほど進んでおらず、高校生たちの思いを考えると今からでもなんとかならないかと思わずにはいられません。

 一方で、非常事態宣言による自粛効果もすでに薄れて、人々の活動が活発になるにつれて感染者も増え、東京都内では感染者が50人を超える日が続いています。そうした中でも、プロスポーツが今後も現在計画されている通りに、通常開催への歩みを進めて良いものか、疑問が残ります。

再び新型コロナウイルスの感染拡大が進む中でスポーツが再開されているヨーロッパ

 海外では、テニスの世界ランキング1位のジョコビッチ選手が自ら主催して母国などで開催したテニスイベントで、ジョコビッチ選手本人を含む複数の選手の新型コロナウイルス感染が確認されて、世界中から非難の的になっています。

 彼の母国セルビアでは5月6日に非常事態宣言が解除されていて、6月の半ばには、大きなサッカーの試合が熱狂的な大観衆の中で行われています。彼が自国では感染のリスクが無くなったと勘違いしても仕方がない状況だったのかもしれません。

 多くの国でロックダウン(都市封鎖)が行われたヨーロッパでは、5月16日にドイツのブンデスリーガが再開したのを皮切りに、各国で国民に最も人気のあるスポーツ、サッカーのリーグ戦が再開されています。

 無観客をはじめ、選手、スタッフの事前検査やお互いの距離を置くなどの感染防止をした上で再開したはずですが、最近の試合の映像などを見ていると、ゴール後のハグやハイタッチは普通に行われていて、すでに感染予防の意識があるようには見えません。

 ただし、そうした状況は他人事ではありません。6月27日に再開したばかりのJリーグでも、ゴールの後のハグやナイスプレーの後のハイタッチは今まで通り行われ、ピッチ上でのつば吐きやボトルの水を使ってのうがいをしている選手もいたようです。

 6月19日に開幕した日本のプロ野球の試合中のベンチの様子やホームランを打った後に大声で騒ぐ様子も、多くの球団で感染拡大前と変わらない様子になっています。

 日本と同様に、ヨーロッパ諸国でも経済活動が再開され、それ以降、多くの国で感染者が増加傾向にありますが、経済活動を優先する各国政府が、再びロックダウンなどの本格的な感染拡大防止策を行う様子はありません。

トランプ政権の経済活動優先政策の下でのCOVID-19感染拡大とスポーツの再開

 感染対策の初動の失敗と経済活動を優先するトランプ政権の政策が原因で、感染拡大が止まることを知らないアメリカでは、すでに累計250万人以上の感染者が確認され、死者数も12万人を超えていずれも世界各国の中でダントツのトップです。今もアメリカの感染者数や死者は増え続けていて、しかも、6月26日には1日の感染者数が4万人を超え、2日続けて過去最高の感染者数が確認されてます。しかし、そうした中でも、中断していたプロスポーツの再開が始まろうとしています。

 野球のMLBは7月23日または24日の開幕、バスケットボールのNBAは8月1日の再開が決まっています。

 MLBはチームオーナーを代表するリーグ機構側と選手会が、年棒を巡り紛糾して、なかなか開幕の日程が決まらず、今シーズンの開催を見送る可能性すらあったようですが、機構側が一方的に日程を決めてシーズン開幕にこぎつけたようです。各チームが60試合を開催し、選手には契約した年棒から開催する試合数分だけが支払われることになるようです。

7月3日からキャンプ再開 MLB、今季概要を発表 - MLB : 日刊スポーツ

 NBAは、26チームから上位22チームにチーム数を減らして、シーズンの残りをフロリダで集中して開催することを決めています。ホーム&アウェイで全国を転戦することによる感染のリスクを回避したためです。

NBA、22チームで7月末にシーズン再開へ フロリダ州で集中開催 | NBA Rakuten

 4大スポーツのひとつアイスホッケーのNHLも3月に中断したシーズンを、7月末から8月上旬に、カナダで集中して開催することを目指しています。

 先にあげたトランプ政権の感染予防に対する無策に加えて、黒人差別運動が高まり全国でデモが行われていることもその要因のひとつで、11月の大統領選挙に向けて選挙活動が盛んになるにつれて、さらに感染が拡大することが予想されています。またアメリカ人にはマスクを着用することに抵抗感がある人が多いということもその原因のひとつに挙げられています。

 最終的には20万人近くの人が新型コロナウイルスのために命を落とすという予測が研究機関から出されています。 

 また、NBAが集中開催を予定しているフロリダなど南部での感染者数の増加が激しく、特にフロリダ州での感染者数は1日1万人に迫る勢いです。このためフロリダ市がバーなどの営業を制限し始めています。

 いずれも日本人のイメージでは、経済的な活動が本格的に再開ができるような状況にはないように思えますが、経済活動を優先するトランプ政権の下では、スポーツの世界でも感染対策は後回しようです。

コロナ禍により大幅な減棒が確実なMLBNBAは開催に漕ぎ着けることはできるのか?

 こうした状況の中での開催ですが、MLBNBAも選手やスタッフが大幅に減棒が余儀なくされていて、選手会側も原則的にこれを受け入れています。さらに、MLBでは3A以下で選手の大規模な解雇も行われたようです。

 しかし、日本の国内では選手たちの減棒や解雇の話は出ていないようです。それが必要なほど追い詰められてはいないのでしょう。

 アメリカのスポーツチームと日本のプロ野球Jリーグと事情が大きく異なるのは、各チームの独立性ではないでしょうか。MLBの各チームは日本のプロ野球よりはるかに大きな経営規模にも関わらず、今回のコロナ対策で経営が逼迫しているようです。一方で、日本のプロ野球の各球団から経営難の話は聞こえてきません。選手会が労働環境を厳しく問わない日本では、ハードスケジュールで各チーム120試合を開催できることもその理由の1つですが、それ以上に赤字分を親会社から補填が可能なことが、最も大きな理由でしょう。

 Jリーグは、リーグ戦は試合数を減らさずに開催することを目指しています。しかし、プロ野球と違って補填できる親会社を持たないチームもあることから、今後経営が厳しくなるチームもあるかもしれません。

 一方で、アメリカでは、シーズン開幕に向けて、今シーズンのプレーを拒否する選手も現れています。感染のリスクがそれだけ身近にあるからこそだと思われます。

最悪の新型コロナウイルスの感染状況と医療体制の中でもサッカーを始めたブラジル

 アメリカ以上に驚くべき状況にあるのがブラジルです。こちらも、大統領の経済優先の政策のために、新型コロナウイルスの感染が拡大し、6月29日現在134万人を超え、死者も57000人を超えています。この数字はアメリカに次ぐものです。

 2013年頃からの構造的な不況で、ブラジル経済は逼迫していて、十分な医療体制が確保できていません。そうした中での感染拡大ですから、政府の政策以前にできることは限られていて、特に経済的に恵まれない層から感染が広がっているようです。

 そうした状況にも関わらず、6月19日にはサッカーの国内リーグの一部が再開して、28日には本田圭佑がプレーしたというニュースも入ってきています。さらに驚くべきは、試合前の検査で多数の選手の感染が確認されたのにも関わらず、予定通り開催された試合もあったようです。

五輪中止は現実的に 〜 世界はオリンピック、パラリンピックの開催よりも経済活動を優先する

 世界的に見ると経済活動が優先されて、新型コロナウイルスの感染対策に本腰を入れる国が少なくなっているようです。それは日本も例外ではありません。経済活動が進んで人の交流が盛んになれば、感染を防止できず、感染が拡大することは自明のことです。

 しかも、これだけの感染が拡大しているのにも関わらず、今後アフリカでのさらなる感染拡大が危惧されている上に、秋以降北半球での第二波のパンデミックも確実視されているのです。

 日本は、来年東京でのオリンピックの開催を目指しています。開催のためには、世界的に感染が沈静化する必要があります。日本だけが感染者がいなくなっても開催はできませんし、逆に世界的に感染が沈静化しても、日本の感染が抑えられなければ、オリンピックの開催は難しいでしょう。

 しかし、日本も世界もすでに感染拡大防止よりも経済活動を優先する方向に舵を切っています。その結果がアメリカやブラジルの止まること知らない感染拡大であり、ヨーロッパや日本の感染者の増加傾向だと言えるでしょう。

 もし、オリンピックを開催したいから経済活動を自粛して感染拡大を阻止しようと、日本が声をあげても、今の状況でそれに同調する国は皆無と言っていいでしょう。それどころか日本の経済界の賛同を得ることも難しいかもしれません。

 また、このまま日本国内の感染拡大が終息または、現状のように他国に比べて感染状況が低いレベルで維持された場合、アメリカやブラジルをはじめ感染状況が改善しない国々からの選手やスタッフ、観客の受け入れは可能でしょうか? オリンピック開催ありきでこうした国々からの人々を受け入れることは、国内の感染拡大に繋がり、開催自治体やホストタウンなどの住民の安全安心な生活を脅かすことになります。

 こうしたことから分かることは、来年のオリンピックの開催はすでに極めて困難だということです。

 現在の状況から、来年東京でオリンピックとパラリンピックが開催するには、次の2つの状況が生まれた場合に限られているのではないでしょうか。

 それは、来年の早い時期までにワクチンか治療薬が完成し、全世界で投薬が可能になる。または世界的に多くの人が感染して集団免疫力ができる。この2つが条件になります。

 ワクチンは既に試験的な投薬が始まったところもあるようですが、安全性が確認されて市販されるまでには1年以上かかると言われています。さらに市販が可能になっても、経済的に恵まれていない国々までもれなくワクチンが届き、全ての人に投薬が可能になるには、さらに時間が必要です。

 集団免疫については、専門家の話によると、人口の60パーセント以上が感染し免疫ができる必要があるそうなので、特定の地域では可能でも、世界的に見ると現実的な話ではないかもしれません。

 やはり、すでに東京オリンピックパラリンピックの来年の開催は薄氷の上と言えるはずです。 

 現在、行われている東京都知事選や国の政治の場でも、こうしたことを冷静に分析して、オリンピック、パラリンピックが開催できないことを前提に議論をすることが必要な時期に来ているはずです。

 

 【資料:新型コロナウイルスの感染状況】

地図とグラフでみる新型コロナウイルスの感染者数【ロイター】

 

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【シリーズ・新型コロナウイルス感染拡大のスポーツにおける影響を整理する】
1 - 東京オリンピック・パラリンピックへの影響
2 - スポーツチームの経営の危機
3 - 選手個人と競技団体の危機
4 - 子供や育成年代への影響
5 - スポーツクラブ閉鎖の影響
6 - 今だからスポーツがやるべきこと

新型コロナウイルス感染拡大に対するスポーツ界の対応(時系列のまとめ)】
6月〜
4月〜5月
1月〜3月